こんにちは! 物語屋のひっひーです。今日は僕の大好きな物語、オペラの中では一番好きな『トスカ』について語りたいと思います!
小説、オペラ、ミュージカル、映画を扱うと言っておきながら、気がつくとあまりオペラを扱えていませんでした (汗)
『トスカ』を扱っていなかったのがまさか過ぎて、自分で驚いたくらいです。取り上げたことはあるんですけどね。
とにかく僕の大好きなオペラ『トスカ』の魅力に迫りましょう!
『トスカ』は僕個人が、というよりも、数あるオペラ作品の中でも特に人気の高い演目なので、あらすじを押さえておいて損はないでしょう! そして歌劇場に行きましょう!
概要
『トスカ』は数あるプッチーニ作曲の名作の中でも特に人気の高い作品で、『蝶々夫人』や『ラ・ボエーム』と並び、現在でも上演頻度の多い作品になっています。
当然ながら物語を引っ張る旋律は素晴らしいものがありますが、僕は音楽は素人なので、各場面で歌われる有名なアリアをピックアップしつつ、いつものことながらストーリーの筋を追っていきたいと思います。
『トスカ』は特に台本が魅力的なんです! 主要人物は三人。その三人しか殆ど出てこない間に二時間が過ぎる。でもスペクタルな展開で、どのオペラ、映画、小説と比べても「劇的度」では他に類を見ません。とにかく展開が早く、シンプルだけど面白い。そんな物語です。
主要人物三人さえ覚えておいてくだされば、この記事を楽しんでもらえます! その三人とは、、、
・トスカ
・マリオ・カヴァラドッシ
・スカルピア
です!
トスカはタイトルにもなっているように、物語の主人公です。オペラではそのままタイトルになっている主人公をタイトルロールと呼びます。トスカは非常に恋愛体質で、情熱的な歌姫です。愛は深いが嫉妬も深い、そんな女性です。
カヴァラドッシはトスカの恋人で、画家をしています。情に厚く、本編では友人のために何本も骨を折ることになります。
スカルピアは欲深い警視総監で、『トスカ』の悪役です。
さあ、覚えるのはこの三人だけでいいんです。覚えましたね? では、あらすじを見ていきましょう!
あらすじ
十八世紀末、恐怖政治の敷かれるローマが舞台です。
幕が上がると教会。画家のカヴァラドッシはここで聖女の絵を描いていましたが、今は休憩中で席を外しています。無人の教会に政治犯として囚われていたアンジェロッティが忍び込み、物陰に隠れたことでそれぞれの運命が動き出します。
アンジェロッティはカヴァラドッシの友人でした。
そこにカヴァラドッシが戻って来て、聖女の絵の続きに取り掛かります。教会にやって来たのが友人だとわかったアンジェロッティは物陰から姿を現し、二人は再会を喜びます。
喜びも束の間、遠くからカヴァラドッシを呼ぶ声がしてきます。トスカです。
「マリオ!」
それを聞き、アンジェロッティは物陰に姿を隠します。
勢いよく教会に入って来たトスカは挙動のおかしな恋人カヴァラドッシを見て浮気を疑います。ちょうどカヴァラドッシは聖女の絵を描いていて、その女性がどこそこの誰に似ているから、その女性をモデルにするためこっそり教会に連れ込んでいたのだろう! と……。
面倒くさい彼女と言えば、面倒くさい彼女です(笑)
ただ、実はこれ、当たっていて、カヴァラドッシが女性を連れ込んでいたわけではないのですが、毎日礼拝に訪れる女性をモデルにしていたのです。その女性とは、アンジェロッティの妹でした。
何とかトスカを宥めると、トスカは今晩会う約束をして帰ります。
その後再びアンジェロッティと話すカヴァラドッシ。カヴァラドッシは友を匿うため、自分の別荘の鍵を友人に渡します。アンジェロッティは友人の別荘まで逃亡を図るため、礼拝に来ていた妹が置いて行った衣服に着替え、女装して教会を立ち去ります。
それと同時に、アンジェロッティが囚われていたサンタンジェロ城で号砲が轟き、囚人の脱獄が発覚します。大砲の音を聞いたカヴァラドッシはアンジェロッティの逃亡に同行します。
脱獄犯を追うスカルピア警視総監は二人の逃亡と入れ替わるように教会に入って来て、アンジェロッティの目撃情報を求めます。スカルピアは、アンジェロッティの妹が置いて行った衣服の入っていた籠が空になっていることを不審に思ったのです!
疑り深く司教を尋問するスカルピア。司教はアンジェロッティのことは話さないものの、聖女の絵を描いていたカヴァラドッシが食事は摂らないと言っていたのにどこかへ消えてしまったと証言し、スカルピアはカヴァラドッシが逃亡の手助けをしているのではと疑います。
そこにトスカが戻ってきます。
なんで……。
浮気を疑うトスカは不意を衝いて教会に戻り、現場を押さえようとしたのです。ところが教会にカヴァラドッシはおらず、浮気相手と逢瀬を重ねていると考えたトスカは不機嫌になります。
それを見ていたスカルピアは籠と一緒に落ちていた女性の扇をトスカに見せつけ、嫉妬心を煽ります。怒ったトスカは教会を飛び出し、カヴァラドッシの元へ向かいます。
スカルピアはトスカの美貌に一目惚れし、アンジェロッティ捕縛とトスカを我が物にするのだと企みます。スカルピアは部下にトスカの後をつけさせます。
スカルピアのトスカへの欲望が歌われ、幕が下ります。
二幕が上がるとスカルピアの邸宅。
カヴァラドッシが連れられ、アンジェロッティの居場所を詰問されますが、友を守るためカヴァラドッシは口を割りません。
物語の舞台ローマはこの時恐怖政治です。スカルピアはカヴァラドッシからアンジェロッティの居場所を聞き出すため、別室に連れて行き、拷問にかけます。
ちょうどそこにリサイタル終わりの歌姫トスカがやって来ます。スカルピアが呼びつけていたのです。
スカルピアはトスカにアンジェロッティとカヴァラドッシの関係性、匿っているのではないかと問いますが、何もしゃべるなと言われているトスカは動揺しながらも口を噤みます。
ところが、、、
別室から拷問にかけられるカヴァラドッシの苦痛の叫び声が聞こえて来て、トスカは恋人が拷問にかけられていることを知ります。
トスカにとって正直アンジェロッティはどうでもいいですよね。恋人の友人だから庇護に協力しようと思ったけど、それで愛する恋人が苦しむなんてトスカには耐えられないわけです。
でも絶対に何も言うなって言われてるし……でもやっぱり、恋人のほうが大事!
トスカは恋人の呻き声を聞くのが耐えられず、アンジェロッティの隠れ場所を明かします。
それでカヴァラドッシへの拷問は終わり、ぼろぼろの状態でトスカの前に連れ戻されます。涙ぐむトスカ。何より恋人が無事だったことが救いです。
ところがトスカがアンジェロッティの居場所をしゃべったことを知ったカヴァラドッシは激昂。
友のためなら死ねる、それがなぜ女にはわからないのか
むしろトスカは
愛のためなら死ねる。何より恋人が大切。なぜそれをわかってくれないのか
と、現代でも見かける普遍的な価値観のずれを口にします。男と女は根底の部分で分かり合えない。でも深いところで愛し合っている……。
カヴァラドッシはトスカを嫌いだから友人を優先したわけじゃありませんよね。たとえばアンジェロッティを匿うことでトスカの身に危険が迫っているのなら、カヴァラドッシもどちらを選ぶか苦悩したでしょう。
ですが現時点でトスカに危害は加えられていないわけです。それで友を守ろうとすると男女の価値観の違いにつけ込まれて悲劇の歯車が回り始める……。
『トスカ』というオペラには「人間」が描かれているのです!
さて、トスカの供述で拷問から解放されたカヴァラドッシですが、再び牢屋に連行されることになります。なぜか。
ナポレオンがオーストリア軍を破ったという一報が入り、恐怖政治を敷くローマに不満を抱いていたカヴァラドッシ(アンジェロッティら政治犯もそうですが)は万歳三唱。この時代、ヨーロッパ各国では革命の機運が高まっていたのです!
カヴァラドッシは牢屋に連行され、トスカは恋人の後を追おうとします。そのトスカをスカルピアは呼び止めます。
トスカはお金を支払い、つまり警視総監への賄賂で恋人の罪を見逃してもらおうとしますが、スカルピアは虎視眈々と狙っていましたよね……
そうです。トスカの肉体です!
スカルピアは賄賂ではなく、カヴァラドッシ解放の代償としてトスカの体を求めます。
ドセクハラやんけ! と総ツッコミが入れられそうですが、何度も言いますが恐怖政治です。思い切ってツッコミを入れてみましょうか?
「ドセクハラやんけ!」
はい、首ちょんぱ。フランスならギロチン、ローマは銃殺刑です。
今みたいに横暴な上司をハラスメントで訴えられるような時代じゃないんです……。
トスカは絶望します。
当然ですよね。普通憎い男に体を許すなんて、どんな女性も嫌ですよね。しかもトスカはカヴァラドッシを深く愛していますし、恋人に対して浮気を断じて許さないということは自分の浮気も断じて許さないということです。そんなトスカが、恋人の生死に関わるとはいえ、欲塗れな下劣な警視総監スカルピアに……
その苦悩が溢れ出すのが『トスカ』の看板「歌に生き、恋に生き」というアリアです。
情熱の歌姫トスカ。その人生はまさに歌と恋。神よどうしてこのように過酷な運命をお与えになるのですか。そんな胸中が、やはり情熱的に歌われます。
「歌に生き、恋に生き」はオペラ屈指の名アリアとしても知られています! ぜひYouTubeなどで聴いてみてください! 心打たれること間違いなしです!
そこへスカルピアの部下がやって来てアンジェロッティが自殺したことを伝えます。こうなっては何のためにカヴァラドッシが苦しんでいるのかわからなくなってしまいます。
トスカは観念しました。その様子を見たスカルピアは部下にカヴァラドッシの処刑は見せかけでいいと指示します。トスカの肉体を得る代わりに、カヴァラドッシの命を助けてくれるのです。
トスカはカヴァラドッシが釈放された後、二人で海外に逃れるため、スカルピアに通行証を書かせます。スカルピアはそれを了承し、通行証を書き始めますが……
食卓の上に置いてあった肉切ナイフを見つけたトスカはそれを後ろ手に持ち、決意を固めます。
通行証を書き終え、さあようやくトスカは俺のものになる、とスカルピアがトスカにキスを求めたその時!
「これがトスカの接吻よ!」
と言ってトスカはスカルピアの胸に持っていたナイフを刺します。
スカルピアはその場で絶命し、悪党とはいえ、敬虔なトスカはスカルピアの遺体の前で十字を切り、スカルピアの手にある通行証を抜き取り、立ち去ります。
悪党スカルピアの死で二幕は幕を閉じます!
いよいよクライマックスの三幕です。
幕が上がるとサンタンジェロ城の屋上です。そこには牢屋と処刑場があり、牢屋にはカヴァラドッシが入れられています。翌朝処刑が執行されるのです……。
カヴァラドッシはトスカへの別れの手紙を認め、それを看守にトスカに渡してくれるよう頼みます。カヴァラドッシはトスカとの別れを嘆き、あまりの絶望に泣き崩れます。ここで歌うのが三幕の聴き所「星は光りぬ」です。
看守がカヴァラドッシの言伝を預かり牢屋から離れると、そこにトスカが現れます。驚くカヴァラドッシにトスカは通行証を見せ、スカルピアを殺したこと、処刑は見せかけだから倒れるふりをすればいいのだと説明します。
「いい? うまくやるのよ。人がはけたら起き上がって、二人で逃げるの」
ここでの愛の二重唱も圧巻です!
いよいよ処刑の時――。
トスカはうまく倒れるのよと語り掛け、カヴァラドッシは「劇場の君のように」と微笑む余裕すらあります。
処刑は銃殺刑です。カヴァラドッシの前に複数の兵士。合図で一斉に引き金が引かれ、けたたましい銃声が響きます。見せかけの処刑なので空砲です。
カヴァラドッシはその場に倒れます。
「うまいわ! マリオ! うまいわ!」
処刑が終わり、皆が引き上げた後、トスカはカヴァラドッシに歩み寄り、さあ逃げようとしますが、カヴァラドッシは動きません。
見せかけの処刑、だよね……?
カヴァラドッシは死んでいます。処刑は本物だったのです!!!
スカルピアはカヴァラドッシを救うつもりなどなかったのです。
冷酷な悪党はトスカを愛していたわけでもありません。トスカの肉体を一度味わえばもうそれで満足なのです。カヴァラドッシの助命、通行証はトスカを手に入れるための口実でしかなかったわけです。
トスカはスカルピアの思惑をすべて察し、恋人の名前を泣き叫びます。
そこにスカルピアが殺されているのを知った部下たちが戻ってきます。昨夜の状況からスカルピアを殺したのはトスカしか考えられません。
「あの人の代償は高いぞ」と言って逮捕しようとするスカルピアの部下。
「ならばこの命で」と言いその場を逃れるトスカ。
そしてサンタンジェロ城の屋上から身を投げるのです。
「おお、スカルピア。神の御前で!」
と空に叫んで。
奇跡のオペラ『トスカ』
途中アンジェロッティやその妹が出てきましたし、スカルピアの部下には「スポレッタ」と役名のあるキャラクターもいるのですが、見ていただいた通り、『トスカ』という物語は、トスカ、カヴァラドッシ、スカルピアの三人しかほぼ登場しません!
それは音楽の部分でも同じなんです!
ん? どういうこと?
オペラは、ストーリーはもちろん、音楽も切り離せないものですよね。
通常オペラの伴奏というのはそれぞれの場面にそれぞれの旋律があり、そこにキャラクターの旋律が見え隠れしながら歌われていくのですが、『トスカ』というオペラはほぼ三つの旋律しかないんです!
三つの旋律……もちろん、「トスカ」「カヴァラドッシ」「スカルピア」の旋律です。
『トスカ』は三幕ものですが上演時間二時間と短い。それはまさにこのオペラの構成、編成に理由があるわけです。
ちょっとこれは文章では伝えきれないのでぜひ劇場で『トスカ』を鑑賞してもらいたいのですが、本当にほぼ三人の旋律だけで一つの物語が作られているのです。
これは他のオペラではあまりありません。
たった三つの旋律。それなのにこれだけ濃密で、劇的なオペラに仕上がっている……奇跡としか言えません。
だからこそ『トスカ』は奇跡のオペラなんです!
裏主役・スカルピア
最後に少しだけ触れたいのがトスカに殺される悪役スカルピアです。
先程『トスカ』は三つの旋律しかないと言いました。主人公のトスカ、恋人カヴァラドッシ、悪役スカルピア。
皆さん、あらすじを読んで、この物語で一番印象に残った登場人物は誰でしょう?
多くの人は、スカルピアというのではないでしょうか。
その感覚通り、オペラ『トスカ』においてスカルピアはストーリーを引っ張る役割を担っていますし、トスカが飛び降りるラストシーンでもその名前が叫ばれるので、印象強く残るわけですが、実はこのスカルピア……
『トスカ』の冒頭で鳴る旋律はスカルピアの旋律なんです!!!
何を一人で興奮してるんだ? って皆さん思われるかもしれません。ですがその疑問も、オペラという芸術を知れば解消されます。
オペラには「序曲」というものがあります。一幕が始まる前に演奏されるのが序曲ですが、この序曲、ただお洒落な音楽を演奏しているわけではないんです。
どういうこと?
序曲とはオペラの中で重要な場面やアリアを凝縮して、あるいはその一部を使って編曲されていることが多いんです。つまり序曲とは小説でいう「伏線」みたいなものです。そのため一度その演目を観たら、序曲を聴けば物語の重要な場面が思い浮かぶというものです。
ほうほう、、、序曲というのはただのおまけじゃないんだな……。
そして大抵、序曲というのは主人公の旋律だったり、主人公やヒロインの行く末を暗示している場合が多いんです。
それが『トスカ』ではスカルピア……いいえ、『トスカ』に序曲はありません。『トスカ』というオペラはスカルピアの旋律が鳴るのと同時に物語へと入っていきます。
そのため僕は『トスカ』の序曲、ではなく、『トスカ』の冒頭で鳴る旋律は、と書きました。
序曲とはオペラの顔ですから、普通は主人公の旋律が使われます。それが悪役スカルピアの旋律になっているのは不可解なことなんです。それだけスカルピアの存在が強大であることがわかります。ですがトスカを差し置いて物語の一番最初に悪役の旋律を鳴らすなんて……。
この謎は、解けていません。そのため『トスカ』は奇跡のオペラであるのと同時に謎の多いオペラでもあるんです。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございます! オペラ史に残る『トスカ』。プッチーニの美しい音楽だけでなく、スペクタルな物語、物語に付随した謎と、見所、聴き所満載のオペラですよね。
人気の演目ですし、オペラの公演なんて長くても十日ほどしか期間がないのでチケットを手に入れるのはかなりの争奪戦をくぐり抜けなければなりませんが、生きているうちに一度は観たいですよね!
でも常に公演があるわけじゃないし、劇場に行くのはちょっと敷居が高い……。そんな人はYouTubeやSpotifyでも場面ごとやアリアごとに『トスカ』の音楽を聴くことができるので、そちらで体感してください!
その際は、絶対に高音質で体感してください! 僕おすすめのソニーのワイヤレスイヤホンを使えばまるで歌劇場にいるかのような大迫力の音響を楽しめます。
ひっひー的イチオシオペラ。プッチーニ『トスカ』を紹介させていただきました!