読者への挑戦! 文豪渾身のミステリー 坂口安吾『不連続殺人事件』

こんにちは! 物語屋のひっひーです。今回は文豪・坂口安吾の『不連続殺人事件』を取り上げます。

文豪なのにミステリー? そんな疑問が浮かぶ方も多いかと思います。文豪といえば人間性を抉り出した、人間の堕落だったりだらしなさだったり、常人には理解できない恋愛だったり、はたまた愛すべき聖性を文学の中で見出す、提示するというイメージですよね。

だから文豪の小説はわけがわからない! ミステリーのように答えのあるものは文豪の作品と呼べるのか? そんな声もあるかもしれません。

実際、文豪と呼ばれる明治から昭和までの作家はたくさんいますが、その中に江戸川乱歩の名前は加えられることは少ないのではないでしょうか? それは乱歩が純文学とは一線を画したエンタメミステリーを書いていたから、かもしれません。(もちろん、乱歩も文豪と呼んでもいいかもしれませんが)

そのため文豪の書いたミステリーと聞くと、本当に面白いのかと疑ってしまいますし、読みづらいんじゃない? なんて考えてしまいます。

ですが坂口安吾、とんでもないことをやっています! ミステリー自体も面白いですし、その中で繰り広げられる人間関係がまさに文豪らしい作品になっているんです。

それ以上に、作品発表と同時に行ったあることがいかにも文豪らしい、突飛な、言葉を選ばずに言えばアホなことだったんです! もう、この辺りがやっぱり文豪なんですよね(笑)。

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原稿料を賭けた渾身の一作

そのとんでもないこととは『不連続殺人事件』連載中に真犯人と事件の動機やトリックを見抜き、出版社にその解答を送付し、見事的中させた読者に原稿料を賞金として与えるというものでした。つまり、犯人当てゲームです。

僕たちの感覚で言えば、安吾はかなり捨て身の犯人当てゲームをしているな、という印象です。

ですが安吾本人はどうやら犯人当てゲームが非常に好きだったらしく、仲間と常日頃やっていた遊びの延長のまま、原稿料を持っていかれることなど二の次で楽しんでいるように思えてきます。

では安吾から読者への挑戦状の一部を以下に掲載します。

附記

この探偵小説には私が懸賞をだします。犯人を推定した最も優秀な答案に、この小説の解決篇の原稿料を呈上します。細目はいずれ、誌上に発表しますが、だいたい、九回か十回連載の予定、大いに皆さんと智慧くらべをやりましょう。当らなければ、原稿料は差上げませんよ。たいがい、差上げずに、すむでしょう。

今から犯人を当てようたって無理ですよ。まだまだ次々と殺人事件が起ります。然し、読者は全てを知らされ、読者の読まれた事実の中に犯人を推定しうる明確な、ぬきさしならぬ証拠があることだけは断言致しておきます。巨勢博士(本作の探偵役――筆者注)も読者の知った事実以外のものから犯人を推定することは決して致しません。(後略)

ここに書いた「附記」は第一回の連載時と第二回の連載時に掲載されたものです。第二回は攻略しましたが。

このように、連載ごとに安吾から読者への挑戦状として附記がつけられていて、安吾は読者だけでなく江戸川乱歩をはじめ、多くの小説家に名指しで挑戦状を送っています。

その中には太宰治からの回答なんかもあるのですが、太宰は頓珍漢な回答を出したようで、安吾は太宰を「探偵の素質がない」なんて言っていて、そういう文豪同士のやり取りがぼんやりとですが見られるのも面白いところです。

少し話が逸れましたが、附記にもある通り、安吾は正々堂々読者に挑戦しています。事件解決のための証拠はすべて本編の中で提示されています。最後に探偵が真相を解明する時、読者の知らない情報は出て来ません!

ちなみに僕は、半分正解だったと言っておきましょうか。ただこれ以上言うとネタバレになってしまうのでやめておきますが、真相を知った時、そうだったのかとなりました。

皆さんより一足先に読み終えた僕から一つアドバイスがあるとすれば、作者は文豪だということを念頭に置くことです。ミステリーとはいえやはり文豪の作品。『不連続殺人事件』は傑作ミステリーですが、その中には確かに人間が描かれているのです。

その人間を、よくよく注意して読んでいき、事件の真相を見事的中させてください!

何より、こうして推理小説を楽しめるのがいいですよね! 残念ながらもう賞金はありませんが、ぜひ賞金が出るつもりで挑んでください。そうすれば、きっと推理に身が入るはずです(笑)。

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あらすじ

今回は詳しいあらすじは書きません。どんなミステリーかというと、洋館系です。

山奥にある歌川家の別荘に続々と集まった文士、詩人、画家、その妻たち。そこに探偵役の巨勢が加わり、ひと夏を過ごしていきます。その中で、計七人もの人が殺害されます。殺害方法は様々、殺害場所も様々、アリバイもそれぞれあったりなかったり……。

本来人間を観察し、内面を書き出す作家が揃っていながら事件の真相を見抜けない中、巨勢博士だけが真相にたどりついて……。

文豪との智慧比べ、ぜひ、勝利してくださいね!

ラストはやはり文豪らしい、涙を誘うものになっています。切なく、悲しい、そんなお話です!

おわりに

最後まで読んでくださりありがとうございます。今回は本当に紹介だけで、踏み込んだお話はできませんでしたが、それもこれもこれから『不連続殺人事件』を読む皆さんのためだと思ってください。

坂口安吾が原稿料を賭けたミステリー小説なのです。その作品をネタバレして語るなんてこと、僕にはできません。この記事で少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。

それでは探偵諸君! 健闘を祈ります。

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