オペラ史に残る魔性の女――『カルメン』

こんにちは! 物語屋のひっひーです。今日はオペラです!

オペラなんて見たことないー、面白いのー? と思うあなた! オペラはいいですよぉ。

とはいえ敷居が高く感じられるのも事実……そういった部分についてはまた別の機会で書くことにします。まず今回は、オペラは面白いものなんだということを伝えたいと思います。

そんな僕が選んだ演目は『カルメン』です!

ここでは『カルメン』のストーリーと魅力的な登場人物についてご紹介したいと思います。

これから物語を観に行くのに先に筋を知ってしまっていいの? そう思われるかもしれません。ですがオペラ最大の魅力はやはり音楽です。それにオペラというのは基本的に原語で上映されます。『カルメン』の場合、フランス語です……。

ですが心配はいりません! オペラは洋画のように字幕がついています。なので筋を知らなくても字幕を追えばストーリーは理解できるのですが、音楽を楽しむためにはあらすじを予め知っておいたほうがいいのです!

『カルメン』とは

『カルメン』はフランスの作曲家ジョルジュ・ビゼーによって作曲されたオペラです。フランスの小説家プロスペル・メリメの同名小説をオペラ化したものです。

『カルメン』の初演は1875年3月3日。フランスの劇場「オペラ・コミック座」で上演されました。

ですが『カルメン』発表当初は聴衆に受け入れられませんでした。なぜか、それはコミック座で上演したことが一つの原因と考えられます。

パリといえば、花の都。エッフェル塔、凱旋門、ルーヴル、ノートルダム、オペラ座……そう、オペラ座です! ですがオペラ座とは一般的にガルニエ宮のことを指します。何が言いたいかというと、オペラ劇場はオペラ座だけではないということです。

パリでは複数存在する劇場にそれぞれ特色がありました。すべて書いていると長大な論文になるのでここではガルニエとコミック座の違いだけを簡単にご紹介します。

一言でその違いを言ってしまえば、お固いか緩いか、です。お固いのはガルニエのほう。格式を重んじるガルニエの客層は貴族。対してコミック座は庶民的で、子供連れの家族も来られるような親しみやすい劇場でした。何よりコミック座は男女の見合いの場でもあったので、悲劇ものは具合が悪いですよね。

そのためガルニエでは悲劇オペラを多く上演し、コミック座ではハッピーエンドの作品が多く上演されました。

そのコミック座でもやがて『マノン・レスコー』や『ロメオとジュリエット』といった悲劇ものが上演されるようになり、悲劇もなくはない劇場となりました。

ですがやはり、コミック座はハッピーエンドを上演するのが主流です。そこで新作『カルメン』を上演したことで、後世オペラ史に燦然と輝くことになる『カルメン』は酷評を受けることになるのです。

ビゼーは『カルメン』以外にもオペラを残していますが、『カルメン』はビゼーのオペラ最初で最後の成功作になりました。ですがその成功をビゼーが目にすることはありませんでした。ビゼーは『カルメン』の初演から僅か三ヶ月後に急死してしまうのです。

『カルメン』が現在まで愛され、オペラ史上最高傑作の一つに数えられているのは、ビゼーの死後チャイコフスキーやサン=サーンスによって評価がなされ、外国の劇場で上演されるようになったためです。結局、素晴らしいものはいつか評価されるのです。

さあ、その『カルメン』のあらすじをまずは見ていきましょう!

あらすじ

舞台はスペイン、セビリアです。軍人ホセは街の警護を務めています。そこに田舎娘ミカエラがやって来て、幼馴染のホセを探しています。ホセの同僚にからかわれてミカエラが立ち去ると、ちょうど煙草工場が休憩時間となり、そこに勤める女工たちが外に出てきます。男たちは煙草工場に勤める美女、カルメンの噂をしています。現れたカルメンはホセに目を留め、手にしていた花を投げつけ妖艶に立ち去ります。この瞬間ホセはカルメンに一目惚れしてしまうのです。そこにミカエラが戻って来てホセの母親からの手紙を渡します。そんな中女工の間で喧嘩騒ぎが起き、カルメンは逮捕されます。カルメンはホセを誘惑し、自分を逃がすよう迫ります。そしてホセは、カルメンを連行するふりをして逃がしてしまいます。

ホセはカルメンを逃がした罰で牢屋に入れられています。その間カルメンは何事もなかったように暮らしていました。ある日カルメンが仲間と集う居酒屋に闘牛士エスカミーリョが現れ、カルメンに言い寄ります。そこに密輸団がやって来て、カルメンとその仲間を密輸の仕事に誘います。牢屋を出たホセが居酒屋に現れるとカルメンは歓迎しもてなしますが、ホセをはじめ、外に出ている軍人を呼び戻すラッパを聞き、帰営しようとするホセにカルメンは激怒。ホセはカルメンに投げつけられた花をずっと大事に持っていた、と訴え、愛を伝えますが、そこに上官が現れて喧嘩になります。上官を傷つけたホセは脱走兵となり、密輸団に加わることになります。

密輸団が山道を行く途中、カルメンとその仲間はカルタ占いを始めますが、何度やってもカルメンには死のお告げが出てしまいます。一同がその場を去ると、ミカエラが現れてホセを連れ戻したいのだと神に祈ります。誰かやって来ることに気づいたミカエラは身を隠しますが、そこに現れたのがホセでした。そして闘牛士エスカミーリョがやって来て、ホセに声を掛けます。ところが二人は恋敵……ホセはエスカミーリョに決闘を申し込み、二人はしばらく闘います。しかしそこにカルメンが戻って来て決闘を止めさせます。エスカミーリョは一行を闘牛場に招待させてほしいと言い残し、立ち去ります。隠れていたミカエラが引きずり出され、ホセに母親が危篤であることを告げます。ホセはなくなくカルメンと離れることになりますが、去り際「必ず戻って来るからな」と捨て台詞を吐きます。

エスカミーリョに招待され、一行はセビリアの闘牛場へ。そこでカルメンとエスカミーリョは愛の言葉を交わします。一時はホセに気が合ったカルメンですが、すっかりエスカミーリョに乗り換えてしまったのです。そこにカルメンの仲間がやって来て、ホセに気をつけるよう忠告します。捨て台詞の通り、ホセが戻って来たのです! それもボロボロの身なりで……。ホセは復縁を迫りますがカルメンにその気はなく、ホセからもらった指輪を投げ捨てる始末。怒り狂ったホセはカルメンをナイフで刺します。カルメンは死に、ホセは愛した女性の死体の上にくずおれ、幕は下ります。

主要な登場人物

カルメン

ジプシーの女。密輸団の一味で煙草工場に勤める女工。男を手玉に取る美貌の持ち主だが、気移りが早く、男たちを翻弄します。自由を求めて生き、息の詰まることが嫌い。誰かに支配されることを望まず、自分の運命は自分で決める。そんな強い意志の持ち主でもあります。だからこそ、多くの男がカルメンに心酔するのでしょう。

たぶんひっひーも、カルメンを前にしたらイチコロです(笑)

ドン・ホセ

竜騎兵の伍長。喧嘩っ早く、怒らせると何をしでかすかわからない……原作小説はホセの獰猛さ、危険人物という点がクローズアップされていますが、オペラだけ見ているとそんな感じはしてきません。どちらかといえば純情で、魔性の女カルメンに惚れたために人生から滑落していく。

ただし最後にカルメンを最後には刺し殺してしまうことを考えると、原作小説にある獰猛さがそこに表れていると言っていいでしょう。ですがカルメン視点に立つと、ホセはただの普通の男に過ぎません。なぜなら彼女を前にして惚れない男はいないからです。

ただしホセの場合、一途過ぎました。カルメンしか見えなくなり、その愛を全身で彼女にぶつける彼はまさに闘牛です。だからこそ、闘牛士エスカミーリョとの決闘の場面は本物の闘牛を見ているかのように思えてきます。

エスカミーリョ

花形闘牛士として大人気のエスカミーリョ。クライマックス直前の闘牛士の列では彼が登場する時に一番の歓声が上がります。そんなエスカミーリョの恋人と見られるのなら、カルメンの承認欲求も満たされそうですよね。闘牛士は今でいうプロ野球選手のようなものですから。

脱走兵となりカルメンから冷められたホセではもう太刀打ちできません……。ですがそんなエスカミーリョも、もしカルメンが生きていたら、いつか捨てられる運命だったのだろうと想像できます。

ミカエラ

ホセの幼馴染であり許嫁。ホセを想い、信じ続ける純真無垢な女性です。母親の使いとしてセビリアまでやって来たり、ホセを連れ戻すために密輸団のアジトに潜入したり、意志の強さと行動力を持った女性でもあります。

そんなミカエラですが、実は原作小説には登場しない、オペラだけのキャラクターなんです。彼女の存在感は絶大で、僕は『カルメン』を観た時、カルメンよりミカエラを気に入ってしまって……というのも、ミカエラには美しいアリアがあり、澄んだ高音に僕はやられました。

でもそれは珍しいことじゃないんです! ミカエラはただの追加キャラクターではないんです。ミカエラがホセを連れ戻すから悲劇的な結末が訪れるわけです。物語の装置としても重要な役割を果たすことは間違いありませんが、やはりミカエラの歌うアリアは群を抜いて美しいのです。

『カルメン』は初演で失敗したと書きましたが、失敗の中でも初めから賞賛されていたところもあったんです。それがミカエラのアリアでした。

もちろんタイトルロールのカルメン、相手役のホセ、悲劇に導くエスカミーリョにも超有名なアリアはあります。ですが『カルメン』においてミカエラは、主人公カルメンに勝るとも劣らない人気のあるキャラクターなんです!

どこかで耳にしたことがある名曲の数々

序曲

『カルメン』の序曲はとにかく有名です! オペラ好きでなくとも、必ずどこかで聴いたことがあります。バラエティー番組などでもよく使用されているからです。僕がぱっと思いつくのは「ビートたけしのTVタックル」です。エンディングで毎週流れていますね。

そんな「カルメン序曲」、名曲揃いの『カルメン』の中でも名旋律を集めたオペラ好きにはたまらない序曲になっています。いや、そもそも序曲とはそういうものなんです。物語の中で展開されていく旋律が、幕が上がる前(あるいは幕開けと同時)に聴衆に提示されるのです。

序曲が始まる直前の緊張感はもうたまりませんし、指揮者がタクトを振り上げるのと同時に襲い掛かる音圧は中毒性が半端じゃないです。もう序曲が始まっただけで涙腺がやられます。

特に『カルメン』は。ぜひYouTubeなどで聴いてみてください!

ハバネラ「恋は野の鳥」

ハバネラはカルメンが舞台に登場して最初に歌うアリアです。情熱的で妖艶で、スペイン民謡特有の独特のテンポが展開されているのでどこか焦らされているような、でもやっぱり誘惑されている。男たちはもちろん、聴衆までもがカルメンの虜です。

そしてハバネラの最後に、カルメンはホセに花を投げつけます。男を誘惑して突き放す、そしてからかうように去っていく……。

男としては、プライドが傷つけられたにも関わらず惚れてしまうという屈辱的な展開。でも、だからこそ燃える。そんな時がありますよね?

カルメンの魔性がありありと浮き出る名場面です!

闘牛士の歌

この歌で、物語の空気が変わります。歌うのは闘牛士エスカミーリョ。その存在感はストーリーだけでなく、音楽にも表れています。それがこの「闘牛士の歌」です。

その堂々たる男らしさ、日々自らを鍛え、追い込み、死と隣り合わせな闘牛へと挑む姿をカルメンが気に入るのも納得です。同時にエスカミーリョもカルメンの美貌を気に入ります。ここからホセとカルメンの悲劇が加速する……。

そう思うと、「闘牛士の歌」は二人に近づく死の足音のようなものです。この後も、同じ旋律がエスカミーリョの場面では流れます。勝ち誇るように。

聴けば皆さん、「これのことを言ってたのか!」となります。絶対にどこかで聴いたことがあります。ぜひ調べて聴いてみてください。

・花の歌~お前の投げたこの花は

ホセの愛の歌。しかしその想いはカルメンには届きません。ホセは歓迎してくれたカルメンにすぐに帰営しなければと話し、それを聞いたカルメンは激怒。

それにエスカミーリョという新たな色男といい感じになったものだから、ホセがカルメンから投げつけられた花を手にどれだけ愛を語ってもカルメンには響かないのです。熱しやすいが冷めやすい、それがカルメンです。

そこに上司が来て大喧嘩、脱走兵となり密輸団の一員となるしかない……。文字通り、ホセはカルメンに人生を狂わされたのです。

切なく哀しい愛の旋律です。

・何も恐れるものはない

ホセを連れ戻しにきたミカエラが密輸団のアジトに乗り込む直前、恐れで身が竦む自分を奮い立たせるように歌うアリアです。登場人物を紹介した時にミカエラは意志の強さと行動力を持った女性だと紹介しましたが、やはりミカエラも普通の女の子。密輸団に乗り込むのは怖いんです。

そんなミカエラが覚悟を決めるように歌う名旋律。迷いとミカエラ特有の力強さは聴衆に感動を与えます。それだけでなく、ミカエラは常にホセを想い、ホセのために行動しています。

こんなにも素敵な女性がいるのにホセは何をやってんだ! そんなふうに窘めたくなりますが、そのミカエラをもってしても敵わない。それがカルメンなんです。

当然ミカエラはカルメンを憎んでいます。七分を超える長大なアリアの中で、純真無垢な少女の怒りと憎しみ、恐怖と恋情が織り込まれているんです。とにかくミカエラのアリアは美しい。

その旋律に涙するでしょう! ぜひ聴いてみてください!

おわりに

オペラは音楽だけで成り立っているわけじゃありません。音楽があり、人間模様があり、大道具、小道具、演出がそこに加わります。そして何より、物語の筋が面白い! 『カルメン』は突出して面白い。突出して音楽が美しい。

そんな名作オペラをぜひ皆さんも一度は体感してほしいと思います!

ただオペラはいつもやっているわけじゃないので、公演予定を見掛けたら、ソールドアウトの前にぜひチケットを買い、劇場に足を運んでください。

それだけじゃなく、オペラには予習も必要です。今回ご紹介したような有名なアリアくらいは事前に聴いておきましょう! その時はやはり、以前にもご紹介したソニーのワイヤレスイヤホンで大音響を味わってくださいね!


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