みんなにおすすめしたい! 大傑作ミステリー 東野圭吾『マスカレード・ホテル』

こんにちは! 物語屋のひっひーです。今回は僕が初めて自ら手に取った小説を紹介しようと思います。東野圭吾さんの『マスカレード・ホテル』です。

僕は実は小説を読み始める前に書き始めた人間なんですが、当然小説のことなんて何もわからない状態で書き始めてしまったので、これは勉強せねばと思い書店に足を運んだところ、ちょうどその時期映画化が発表されていた『マスカレード・ホテル』が店頭で大量に平積みされていたのです。

キムタクと長澤まさみが主人公とヒロイン! 絶対面白いじゃないか! と、ビジュアルを見て購入。それまでミステリーはおろか、小説というものには現代文の授業でしか触れて来なかったひっひー……。

もはや説明不要のミステリー界の大作家東野圭吾さんの頭脳に敵うはずもなく、読めば読むほどのめり込み、そして最後は思いっきり騙されるという、これまでにない衝撃的な体験をさせてもらいました。

天才だ……。東野圭吾、天才だ……。呆然としながら、そう思ったのを今でも覚えています。ここから僕は東野ファンになっていくのです。

そんなミステリー小説が面白くないわけありませんよね? 実際、映画化の時点で三百万部を売り上げていました。

マスカレード・シリーズは『ホテル』の他に『イブ』『ナイト』『ゲーム』と現時点で四作刊行されているのですが、そのすべてだと優に五百万部を超える大人気シリーズです。

その原点にして頂点、『マスカレード・ホテル』を見ていきましょう! ネタバレはしません!

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『マスカレード・ホテル』のあらすじ

僕が購入した文庫本の裏表紙には次のようなあらすじが掲載されています。

都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行現場が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!?

もうあらすじだけでミステリー好きは涎だらだらです!

連続殺人……暗号……潜入捜査……バディもの……怪しげな客がたくさん出て来る……もうお腹いっぱいな気さえしてきます。

「東野さん詰め込み過ぎですよぉ」と思うかもしれません。ですがまだまだ。『マスカレード・ホテル』はこんなもんじゃありません。張り巡らされた謎も伏線も、設定も人間関係も、すべて計算し尽くされた構成になっていて、事件解決へと向かって行くのです!

『マスカレード・ホテル』は、驚愕の真相解明まで読んでこそです。

読者に提示される謎の多さ

1.三件の連続殺人事件

まずはミステリー好きの大好物、連続殺人事件です。ところが『マスカレード・ホテル』の連続殺人事件はよくある連続殺人事件じゃないんです。

なぜなら普通連続殺人事件というのは犯行手口や被害者に何らかの共通点があり、警察が「これは同一犯による連続した事件だ」と判断することで連続殺人事件と認定されるからです。

ところが『マスカレード・ホテル』が幕を上げる時点で起きている連続殺人事件、その被害者に共通点は見つかっておらず、殺害方法もばらばら……。

一見連続殺人事件とは思えません。

ですがこの事件、奇妙な共通点があるんです。それは現場に残された謎の数字です。

三件の殺人事件の詳細を警察はまだ公表していないとのことなので、模倣犯はあり得ません。つまり、これまで起きた三件の殺人事件は、事件の詳細を知る事件関係者によって起こされている連続殺人事件と断定されるわけです!

2.犯行現場に残された暗号

では犯行現場に残された謎の数字とはどんなものだったのか。その答えは書きませんので安心して読み進めてください!

一件目の犯行現場に残されていた数字……45.761871/143.803944

二件目の犯行現場に残されていた数字……45.648055/149.850829

三件目の犯行現場に残されていた数字……45.678738/157.788585

小数点以下が何桁も並ぶ数字なんて見たくない! すでに頭痛がしてきそうです。本当に何の数字なのかわけがわかりませんよね。しかもこの数字は単に何かを示しているのではなく、もうひと手間加えてあるので、余計に厄介なんです。

それを新田刑事が解読し、次なる犯行現場がホテル・コルテシア東京と考えたことで潜入捜査が実施されることになったのです。新田、天才過ぎる……。

3.犯人と第四のターゲット

こうして潜入捜査を行うことになった新田はホテルマンに化けてフロントクラークとしてホテルのロビーに常駐するわけですが、肝心の犯人と第四のターゲットについては何もわかっていない状況です。

つまり、宿泊客全員が容疑者というわけです! 一流シティ・ホテルですから、客数もめちゃくちゃ多い……。この中から犯人を見つけ出すなんて無理だろ、

それだけではありません。ホテル内は監視カメラですべて監視できるようになっており、それ以外でも常に誰かしら人の目がある……そんな状況で殺人を犯すはずはありません。ですが一ヶ所だけ、カメラも人の目も届かない場所があります。それは、

客室です!

新田は犯行が行われるのは客室だろうと睨んでいます。客室を自由に出入りできる人物……その部屋の宿泊客と、そう、ホテル従業員です! つまり容疑者は宿泊客だけじゃないということです。もう手が回りません……。

そんな中にあって、新田はある一人の容疑者に目をつけています。その男は手嶋正樹という人物で、第一の事件の容疑者でした。ですが鉄壁のアリバイが存在し、逮捕に踏み切れないまま第二の事件が発生し、例の暗号によって連続殺人事件と認められたため、逮捕できずにいました。手嶋正樹と第二の事件の被害者には一切繋がりがないのです。

その手嶋を新田はなぜ睨んでいるのか。

それは殺害動機がはっきりしているからです! 手嶋正樹は同僚社員と共謀して会社の金を横領した疑いが掛けられているのです。その同僚社員が都合よく死んだ……。明らかに怪しい。

ですが先程も言った通り手嶋正樹には鉄壁のアリバイがありました。手嶋は犯行時刻に元カノからの家電に出ているのです。元カノが手嶋に電話を掛けたことも、その時元カノと一緒にいた友人によって証言がされています。

つまり、手嶋に犯行は不可能……。

でも明らかに怪しいですよね! 新田ほど優秀な刑事じゃなくても手嶋を怪しむはず。

二件目の事件でもすぐに容疑者は浮上。被害者女性の夫です。被害者女性は合計一億五千万円を受け取れる生命保険に加入していて、受取人は夫です。

保険金目当ての殺人の臭いがぷんぷんしますね。ですが現場に残された第一の事件と同じような数字の羅列が見つかり、夫はすぐに逮捕されません。

第三の事件は発生して間もないこともあり、捜査はそれほど進んでいません。そのためこれといった容疑者は浮上していない状況です。

そして遂に、コルテシア・東京に殺人犯の魔の手が……!

でも誰が犯人なのかわからない。これまでに起きた三件の殺人事件の容疑者がふらふらっと現れてくれたら話は早いんだけどなあ、なんて言っているうちに続々と宿泊客はやって来てしまいます。

なんせ一流ホテルなのです!

4.宿泊客たちの意味深な行動

『マスカレード・ホテル』の宿泊客は本当に困った人たちで、冒頭にチェックインする客から早くもクレーム、クレーム、クレームです。真ん中にクリームを挟んでもばれなさそうなくらいです!(笑)

それでもホテルマンにとって「無理」は禁句。映画化の際の予告映像などで見覚えがあるかもしれませんが、ホテルの世界では「客、ではなく、お客様」なんです。このセリフは原作の中でも度々登場します。

はあ、思わず溜息が出ます。ホテルマンにはなりたくない! そう思うほど、ホテルマンは客……ではなくお客様のためにできる限りのサービスを提供しなくてはならないんだそうです。それが仕事、と言ってしまえばそこまでなんですが……。

ホテルにとって大切なお客様を「クレーマー」呼ばわりするわけにはいかないので、ここではポジティブに言い換えましょう。さあ、ホテルに続々と個性的なお客様がやって来ます!

ただ、ネタバレしないためにもあまり詳しくは書けません。ここでは個性的なお客様の諸情報程度を載せるに留めましょう。

1.視覚障害を持つ老婆

白杖を手に、サングラスを掛け、手袋を嵌めた老婆。新田は老婆を「視覚障害者にとって触角は貴重な情報。手袋をする人はまずいない」という理由で疑います。確かにそうですよね! すぐに思い浮かぶだけでも、視覚障害者の方は点字や点字ブロックをはじめ、ものに触れて情報を得られていますし、怪しい……。

しかも霊感が強いとか何とか言って胡散臭い。怪し過ぎる! さらに面倒なことに、新田の教育係である山岸尚美をわざわざご指名してレストランに案内させたり、ものを探させたり……。

絶対こいつが犯人だ! だって怪し過ぎる!

ですが老婆は翌朝チェックアウト。早々に退場です。あらら……あんなに怪しかったのに!

2.ある男を自分に近づけないでほしいという女とその「ある男」

老婆がチェックアウトすると、入れ替わるように一人の宿泊客がチェックインします。その女性客は男の姿を写した写真を提示し、「写真の男をあたしに近づけないようにしてほしい」と依頼します。ホテル側は写真の男性との関係を聞こうとしますが、女性は取り合おうとしません。ひとまずストーカー被害に遭っているのだろうと考えられます。

その夜、写真の男がホテルにやって来ます。何と部屋を予約していたのです! 当然のようにチェックインの手続きを済ませホテル内に……。

ホテル側は大慌て! 女性客にも用心するよう注意を促すのですが、そこから大騒動へと発展していきます。

3.新田を目の敵にする中年男

女性客のおかげで大騒動となった翌夕、潜入捜査班を動揺させる人物がホテルに現れます。それが次に紹介する男性客です。

この男性客は、なぜか新田ばかりを指名し、こき使い、しかも怒鳴り散らします。もう、面倒な人ばっかりだ……うんざりしてきますよね。ですがここはうんざりしてはいられません。なぜなら新田の顔見知りかもしれないからです!

新田自身、どこかで会ったことがある気がする、と感じています。新田を知っているということは、新田が警察官になったことを知っている可能性があり、もしそうであれば、「なぜ刑事の新田がホテルマンなんてやってるんだ? そうか、潜入捜査だな!」と気づかれる恐れがあるからです。

警察としては、なるべくその客の対応を新田にさせたくない。でもその客……ではなくお客様は新田をご指名する。新田としてはホテルマンを演じ切らねばなりません。急造ホテルマンの新田にとっては大変な任務です。

新田が薄っすら感じていた、どこかで会ったことがある気がする、という予感は正しいもので、その詳細についてはぜひ本編を読んで知っていただきたいのですが、とても感動的な場面であることは先に言っておきます。

そしてここで、ホテルマンとしての新田は一つ成長することになるのです。そして事件も、大きな転換点を迎えることになります。

4.花嫁

次はコルテシア・東京で近々結婚披露宴を挙げる予定の花嫁です。ここまではクレーム、クレーム、クレーム、クリーム、クレームばかりの散々なお客様たちを紹介してきましたが、この方はクレーマーじゃありません。よかった……。

いやいや、よかったじゃないです! この花嫁、最近誰かもわらかない相手からストーカー被害を受けているんだそうです。

犯人もターゲットもわからない状況、さらには(あまりはっきりとは言えませんが)警察の捜査の中で方針が変わったこともあり、当初はストーカーが絡む事件じゃないと目されていた今回の事件が、もしかしたらストーカーが犯人かもしれないと考えられるようになったので、これは大問題です。

早速新田は花嫁の挙式の警備について打ち合わせを行います。披露宴の最中に犯人が現れないとも限らないのです!

披露宴が翌日に迫る中、ホテルに花嫁宛ての贈り物が届けられます。中身はワインと書かれているのですが、新田はある奇妙な点に気づきます。それは宅配伝票がデパートのものではなく、一度持ち帰って貼り付けられたものであるということです。

それの何がいけないの?

そう思いますよね。要するに、デパートから直接ホテルに郵送したのではなく一度持ち帰ったということは、ワインに何らかの細工がされている可能性があるということなんです。

ワイン……細工……そう、毒です。犯人は花嫁を毒殺しようとしたのかもしれません!

そこで鑑識にワインの成分を調べさせることになるのですが、ワインのコルク栓には注射針を貫通させた痕があり……。もう黒確定じゃないか! だって殺害方法はばらばらなんだから!

5.花嫁のストーカー

披露宴当日、花嫁のストーカーがホテルに現れます。しかも、女装して! 怪しい、怪し過ぎる。これまで紹介した宿泊客は全員すでにチェックアウトしています。そうなると、もうこいつしかいないじゃないか!

早とちりはいけません。お忘れではないですか? この『マスカレード・ホテル』を誰が書いたのか。そう、東野圭吾さんです! 一筋縄ではいきませんよ。まだまだ物語は盛り上がって行くんです!

さあ、誰が犯人なのか、考えて考えて考えてください。

きっと最後、犯人に化かされます。「にったー! にったー!」と鬼気迫る展開にヒーローを呼ぶ声が出ることでしょう。これはただの仮面舞踏会じゃないんです。負ければ、死人が出るんです……。

5.アリバイトリック

ここは超短いです。なぜなら内容に触れるとネタバレになってしまうから!

伝えたいのはただ一つ!

『マスカレード・ホテル』にはトリックが登場します! ミステリーといえばトリックです! そのトリックが登場します! しかも現代社会を生きる僕たちにとっては超身近なトリック。

しかもこのトリックが物語の重要な転換点にもなっています! 超重要!

6.衝撃の新事実

これもはっきりとは書けません! なぜならネタバレになってしまうから!

とにもかくにも、作中でとんでもない転換点があるということです。「えー!」です。「えー!」嘘でしょってなります。

本当に、犯人の手の中で踊らされていただけ……。そんな感じです。

ですがこの新事実が発覚するからこそ事件は解決へと向かって行くことができるんです!

さあ、ここまで読んでいただいただけでも「面白そう!」「読んでみたい!」と思ってもらえたんじゃないでしょうか?

そういった方はこのすぐ下のリンクから『マスカレード・ホテル』をご購入いただいて、ぜひ極上のミステリーを味わってください! この後は、一度読んだ人ならさらに『マスカレード・ホテル』を楽しめる内容になっていきます。もちろんネタバレはありません!

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計算され尽くした構成

一度でも『マスカレード・ホテル』を読んだことがある方は、周到な仕掛け、綿密な伏線、秀逸な設定と言えばうんうんと頷いていただけることでしょう。

そのすべてを語りたいところですが、伏線や仕掛けについて触れるとネタバレになってしまう恐れがあるので、ここでは主人公新田浩介のキャラクター設定について見て行こうと思います!

新田浩介 警視庁捜査一課警部補。映画予告の文句を拝借すると、「型破りだが人を見抜く天才」です。

人を見抜く天才というからには序盤で犯人を見抜いてしまうんじゃないか。いえいえ、さすがに超人的な能力はありません。言い換えれば、人を疑う天才、といったところでしょうか。これは人を信じる天才山岸尚美とは正反対と言っていいでしょう。

そんな新田ですが、帰国子女という経歴を持っています。これがまた、『マスカレード・ホテル』を語る上では欠かせない秀逸過ぎる設定なんです!

そもそも新田はなぜフロントクラークに化けるのか……。

フロント業務をしていると、宿泊客の出入りはもちろん、個人情報や何人で宿泊予定かを把握することができます。誰が何日泊まるのか、どういった予定を持っているのか、そして人相を間近で見ることができる。さらには支払方法によっては偽名を使っている可能性を勘繰れる。

要するに、フロントクラークとは、潜入捜査に必要な情報をすべて把握することができる職種ということになります。推理小説なのだから、主人公を通して読者に容疑者の諸情報を提示しなければならない。だから新田はフロントクラークとして潜入しなければならないのです。

「じゃあ別に、フロントクラークとして潜入捜査してまーす!」でもいいじゃないと思ったそこのあなた! そうじゃないんです。そんなことをしたら、あまりのご都合主義に読者は白けてしまいます。

何が言いたいかと言うと、新田がフロントクラークにさせられる絶対的な理由が必要だということです。

フロントクラークを任せられるのは新田しかいない。だから新田はフロントクラークをやらざるを得ない。そのほうがずっとリアリティもあります。そのために必要な能力……英語です。

何度も書いていますが舞台は一流シティ・ホテルです。当然、世界各国から旅行にやって来たお客様の対応をしなくてはなりません。正規のホテルスタッフのフロントクラークは皆英語が堪能です。その中にあって一人だけ英語が話せないというのは、潜入捜査を続ける上で重大な問題、粗となってしまいます。

じゃあ新田は英語が得意だったという設定にすればいいのでは?

それもやはり都合が良すぎます。読者に後付けだな、と思われても仕方がありません。つまり必要なのは人間味、新田のこれまでの人生です。この人はこういう人生を送っている。だからこういうことができる。そう言われれば説得力も増します。

だから新田は帰国子女なんです。かつては父親の仕事でロサンゼルスに滞在していました。なるほどそりゃ英語もできるわけだわ。納得です。最も重要なポジションに主人公を配置する必然性はばっちりです。

ですがここからが東野圭吾。ただの設定では終わらせません。

フロントクラークというのは捜査情報のすべてを把握できるポジションであるのと同時に、お客様の目に最も触れるポジションでもあるんです! つまり新田の所作や言葉遣いは何百人という宿泊客、ひいては真犯人に常に監視されているとも言えるのです。

だからこそ山岸尚美は新田の仕草や言葉遣いを厳しく指導する、それによって水と油の二人の関係性が浮き彫りになり、対立しながらお互いを尊重していくという青春っぽさも加わります。

それでも初めは、やはり何年も最前線で働いているフロントクラークと同じように仕事をこなすことはできません。ホテルの常識を刑事の新田は持ち合わせていません。

それが原因で大切な客様を怒らせてしまうこともしばしば……。そしてまた山岸尚美に指導されることになります。ところがこれが読者への世界観の提示、そして伏線へと繋がっていきます。

主人公をフロントクラークにする二つ目のメリットとして、ホテルという異空間の世界を少しずつ提示していけるという点があります。様々な問題にぶつかりながら、新田はホテルマンとしても刑事としても成長していくのです!

そんな新田の帰国子女設定。これが原因で作中ある一悶着を起こしてしまいます。ですがそれも最後は感動的で、さらに広い視野で見ると連続殺人事件の捜査に大きな影響を与えることにまで繋がっていく。

何て巧妙な、計算された設定であることか……。もう驚嘆せずにはいられません。深い……深すぎる!

物語のクライマックスとなる場面でも、新田は披露宴の警備につくことができず苛々していますが、その後のドタバタで新田が活躍するにはフロントにいる必要があり……。とにかくフロントなんです。フロント、フロント、フロントです。

そして事件の真相に迫る時も、やはりフロントクラークとしてすべての宿泊客の姿を見ていたからこそ、事件を解決に導いていけるんです。やはり新田は、人を見抜く天才なのです! 読めばわかります!

ただ帰国子女という設定なだけ、ですがその設定だけでこれだけのことを考えられるわけです。些細な人物設定も重要だと思いませんか? 

こういう読み方も面白いですよね! ここには書いていない細かな設定はまだまだあります。ぜひご自身でも探して、こうじゃないか、ああじゃないかと考えてみてください! きっともう一度読み返したくなるはずです!

こんなのあり!? ホテルというミステリー上の特殊過ぎる空間

再三お伝えしていますが、ホテルというのは異空間です。ロビーの出入り口一つ隔てただけで地球の裏側にワープしたのかと思うほどです。そのホテル……ミステリーの舞台としては反則級の機能性を持っています。

『マスカレード・ホテル』の大前提で言えば、犯人はホテルを訪れる宿泊客の中にいるんです。怪しい人はたくさん出てきます。でもその人たちはみんなすぐにチェックアウトして帰ってしまいます。

じゃあこの人たちは犯人じゃないじゃないか! そんな悶々とした思いにすらなります。

ですが皆さん、ミステリーには鉄則というものがあります。その中の一つに、書き手は物語の前半までに犯人を登場させなくてはならないというものがあるんです。(絶対ではないですが、暗黙の掟です)

つまり、次から次へと宿泊客がやって来ては帰るけど、犯人が出て来ていないということはあり得ないんです! 絶対に犯人は登場しています。

でもホテルだとみんな帰ってしまうので、鉄則通り前半に犯人が登場しているのなら、チェックアウト後はホテルにいないということになりますよね?

そんなんありなんか! と思わず叫びたくなります。でもホテルって、そういう場所ですよね?

怪しい人が来て帰っていく。ただそれだけの、ごく自然なことなんです。その間捜査陣はどうしているか……。

この中に犯人がいると息巻いて、血眼になって昼夜問わず捜査に勤しんでいます。でも犯人はすやすや寝てるんです(すやすやかは知らんけど)。そう考えるとどこか滑稽ですよね?

すべて徒労に終わるということ? いえいえ、そんなことはないんです。犯人がホテルにいない間でも警察は各方面を捜査し、その中で伏線が張られていきます。それが最後になって一つにまとまっていく。

ずるすぎます! ホテルずるすぎる。こんなにミステリー向きの空間があるでしょうか?

ミステリーといえば孤島ものや館ものがその舞台としては代表的ですが、ホテルという舞台はそれらの舞台を凌ぎ、かつリアリティという点で言えば圧倒的勝利です。

だから『マスカレード・ホテル』は最高に面白いんです。

おわりに

最後まで読んでくださりありがとうございました! 『マスカレード・ホテル』の魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。

マスカレード・シリーズはこの後も『イブ』(前日譚)『ナイト』『ゲーム』と続きます。どれも超面白いです。舞台はやはりホテル!

しかしやはり、東野圭吾さんです。すべて趣向が違います。「ああ、『マスカレード・ホテル』と同じ感じね」と思っていると、また騙されます。

この下にシリーズすべてのリンクを貼っておきますので、ぜひまとめて読んでください!

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